ボランティア

1%クラブとSVA―絵本を届けるサンタさん

師走の昼下がり。近畿大学教授の秦辰也さんは、奥様のプラティープ・ウンソンタム・秦さんとホテルエルセラーン大阪(大阪市北区)にこられました。
プラティープさんは、「スラムの天使」と呼ばれています。
26歳の時にアジアのノーベル平和賞といわれるラモン・マグサイサイ賞を受賞、その賞金でドゥアン・プラティープ財団を設立。スラムの子どもたちに献身的に尽くし、今年8月に創立40周年を迎えていました。
12月8日に行われたエルセラーンのクリスマスフェスティバルで、その40周年の報告をするために来日。提携団体であるSVA(シャンティ国際ボランティア会)の常務理事もつとめる夫の秦さんが、寄り添ったのでした。
フェスティバルの報告は、プラティープさんが中心でした。
そこで秦先生に、クリスマスにちなんで、子どもたちの夢が広がるSVAの図書館活動について聞きました。

──エルセラーン1%クラブが協力しているSVAの図書活動について教えてください。

エルセラーン1%クラブはSVAの【絵本の出版】と【図書館活動】、この2つの事業を支援してくださっています。
【絵本の出版】についてはアフガニスタンやタイ・ミャンマー難民キャンプで、少数民族の民話を、少数民族の言語で書く。
そうして作った絵本を子どもたちに読んでもらうことで、教育の浸透と文化保護を同時に進めていこう、という事業です。

──秦先生は「絵本が果たす役割」をどのように見ますか?

いろいろな要素がありますが、総合して言うと、子どもたちに知識を得る喜びを感じてもらうことだと思います。
まずは子どもたちに知識を得ることは楽しいことだと知ってもらう。
次に、絵本を通して子どもが持つイマジネーションを膨らませるという狙い。
また、情操教育。子どもたちの中に思いやりの心を育てるというようなことです。
そして、絵本を通して子どもが変わると、その変化を両親が見て、「大人が教育の大切さを認識する」という効果もあります。

──ふたつのそうぞう力(想像力・創造力)を育てるということでしょうか。

はい。それに加えて、読み聞かせができる、ということも絵本の大きな役割です。
両親から子どもへの読み聞かせはもちろん、識字率の低い地域では、子どもが親に読み聞かせる、ということも見られました。
子どもたちが学んだことというのは一生残っていきます。特に学齢で言うと中学校までに学んだことです。この学齢まで教育を継続して行うためには、実は幼児教育がその基礎を作るという重要な役割を持ちます。

──読み聞かせは日本のように、家庭で親が子に、あるいは地域で大人が子どもに、というのがありますが、そこまでの浸透は現地ではないのですか?

そうですね。そもそも絵本が非常に貴重で高価なものです。
学校に行っても十分な数の絵本がありません。教科書でさえひとりに一冊ない状況です。
ですので、そのような地域に絵本を持っていくと、子どもたちはいっせいに群がり、貪るように読んでいます。

──やはりそれだけ本の果たす役割は大きい?

そう思います。SVAではカンボジアなどで学校を建設する際、図書館も一緒に建てます。
学校と図書館が隣り合うというのをひとつのモデルにしていますね。
こういった図書の重要性を行政がきちんと認識した上で、そのための予算を付けてもらう。
さらに司書の養成や教員の研修指導などにも関わっています。

──実に様々な絵本がありますね。動物が主役のものも多いですが。

そうですね。ここまで多様な絵本を出版するのにも困難がありました。
絵本ではよく動物がでてきますよね。人のように話したり、生活したり。
しかしそういうものは、タリバンなどの保守的なグループからは「けしからん」「ふさわしくないもの」だとされて、消されてしまいます。

──絵本が本来持つ「子ども性」というものが奪われてしまうわけですね。

そう言わざるを得ません。
ですから、これらの絵本は現地で喜ばれています。

──SVAは絵本の出版だけでなく、学校図書館への寄贈などもおこなっているのですか?

はい。ご紹介したような「現地で出版する絵本」に加えて、「日本から絵本を持っていく」という活動もあります。
日本で出版、販売されている絵本には、海外の子どもが読むものとしても、内容がとても良いものがあります。
そのような絵本は作者、出版社から許可を得て、訳語のシールを貼ります。それを現地に届ける、という活動をしていますね。


絵本とともに、子どもたちに喜びを届ける。
本記事の取材後、プラティープさんと歩く後ろ姿が、隣のサンタクロースと重なりました。


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