ボランティア

海外の絵本紹介 第6弾「困難を乗り越えて」

エルセラーン1%クラブは公益社団法人シャンティ国際ボランティア会と提携し、途上国での教育支援事業をともに進めています。
共同事業は学校建設にとどまらず、絵本の作成や図書館の運営といった「図書活動」にも及びます。

今回はエルセラーン1%クラブへのご寄付により完成した絵本をご紹介します。
これまで紹介してきた5冊の絵本は民話をベースにした話でしたが、今回は少数民族を取り巻く過酷な現実が描かれています。


「困難を乗り越えて」
作:ノー・セイ
絵:メー・ター・エ

(表紙・裏表紙 見開き)




私の名前はノー・ムー・スィー。体は丈夫ではないけれど、歌うのが好きな3年生。
ある日学校にいると、大きな爆発があり、みんな逃げ出しました。
校長先生は、できるだけ早く家に帰るようにと言いました。私の村で争いが起きたのです。とても怖かったです。





家に帰ると、家の中はひっそりとしていました。
みんな怖くなって、洞くつや川の上流 に逃げて行ったのでしょう。
私もとても怖かったです。 誰も見つからず、どうしたらいいのかわからなかったので、 家の2階に向かうことにしました。
そこでは妹が一人で寝ていました。みんな妹を忘れて逃げて行ってしまったようです。




困ったことに気づきました。 私はまだ小さくて、一緒に家族を探してくれる大人は周りにいません。
今妹を連れて逃げることができるのは、私だけです。
とてもお腹が空いていたけれど、食べものは持って行けません。
私は妹を抱き上げ、ぎゅっとしました。妹の様子を見ていると、気持ちが落ち着き、恐怖がやわらいできました。




お母さんや家族を探して、必死であたりをかけ回りました。すると、大きな砲弾が近くに落ちてきました。
私は急いで近くの木に駆け寄り、妹を木のくぼみに入れ、おおいかぶさりました。
木の中にいれば妹は安全だと分かって、少しほっとしました。しかし、妹が突然痛みで泣き出しました。
ああ困った。私たちはアリに噛まれていたのです。 そこでその場を離れて、小さな川まで歩かなければならなくなりました。




暗くなりはじめ、あちこちに人が見えたけれど、家族の姿は見えません。
食べるものも寝る場所もなく、本当に困ってしまいました。 妹を抱いて逃げていると、親切な人がバナナをくれました。
お腹はペコペコで、今すぐバナナを食べたかったけれど、食べずに妹のためにとって おきました。
夜中に妹がおなかを空かせて泣き出したら、誰かに怒られるかもしれないと 思ったからです。




また移動して、川の東側を探しましたが、やはり家族は見つかりません。
そこで男の人に助けを求めて、川の西側に渡って家族を探すことにしました。しかし西側に着いたとき、本当に困ってしまいました。 そこでは誰も私の家族を知らなかったのです。
幸い、そんな私たちをかわいそうに思って、どこを探したらいいかを教えてくれた人もい ました。親とはぐれるなんて不注意だ、と叱るお年寄りもいました。
本当に大声で泣きたい気分でした。でも、もし私が泣いたら、妹はそれを見てもっと不安になってしまうと分かっていました。




銃の音が落ち着き、あたりは真っ暗になりました。私はまだ家族を探して川のほとりを歩いていて、お腹はペコペコでした。
大きな岩のふもとにたどり着くと、食べものや鍋が入った大きな竹のかごがありました。自分と妹の食べものだけでももらえないかと思いました。
でもお父さんとお母さんから、人のものを勝手に取るのは悪いことだ、泥棒だと教えられていたので、困ってしまいました。 そこで、食べものを勝手に取ってしまわないように、竹かごから離れました。




遠くから竹かごを見ていると、またお腹が減ってきました。男の人が近づいてくるのが見えたので、私たちに気づくように音を立ててみました。
最初その人は私たちを見て少しびっくりしていましたが、すぐにやって来て、なぜそこにいるのかと尋ねました。
私は 村で争いがあったこと、お父さんとお母さんとはぐれてしまったことを話しました。
驚くことに、この人は私の家族を知っていました。私のお母さんは、この人の具合が悪かったときに、面倒を見たことがあったのです。




その男の人は私たちを元気づけてくれ、家族を探すのを手伝うと約束し、食べものもくれました。
感謝の気持ちでいっぱいでした。それから大きな洞くつに連れて行ってくれ、中は安全だと言いました。洞くつの中はとても静かでした。
最初は誰もいないと思っていたのですが、奥に進むにつれて人の声が聞こえ、たくさ んの家族がいることに気づきました。 犬、猫、ニワトリ、アヒル、ブタもいました。多くの人が食べものを持ってきたり、動物を連れてきたりしていました。
かわいそうに、何も持って来られなかった人もいました。あまりの恐怖に、あわてて逃げなければならなかったのです。




洞くつの中を歩きまわっていると、私の名前を呼ぶ声が聞こえました。それはお母さんの声でした!
見渡すと、ほかの家族もいました。家族にまた会うことができて、とてもうれしかったです。
お母さんと並んで座っていると、ここにはたくさんの家族が隠れていると耳元でそっと教えてくれました。
靴さえ持っていない人もいて、自分の持ちものに気を付けなければなりませんでした。
でも一番大切なことは、他の人のものを取らないことでした。




洞くつの中は安全でしたが、用心して生活しなければなりませんでした。多くの人が何の準備もなく、突然逃げなければならなかったので、食べものが足りなかったのです。
その晩はおかゆだけでしたが、みんなで分け合って食べました。
その晩と次の日も、洞くつの中で過ごしました。午後になると、暗くなったら別の場所に移動するように、という知らせが届きました。




夕方、お母さんが用意したカバンを私に持たせてくれました。
暗くなり、私たちは手をつないで暗闇の中を歩き出しました。私はお母さんに、どうしてたいまつを使ってはいけないのか尋ねました。
お母さんは、敵がすぐ近くにいて、あかりを見ると私たちを襲ってくるからだと教えてくれました。
私たちはまた、困ってしまいました。




暗くて何も見えませんでした。暗闇で何度もつまずき、足にはたくさんの擦り傷やあざができました。
何時間も歩き、私たちが乗るボートが待つ場所に着きました。夜明け前に、ボートは別の場所に到着しました。




次の日、また困ったことになりました。長い道のりを歩かなければならないのに、これ以上動かせないほど足が痛みました。 お母さんは私を励まして、今いる場所は危険だから、歩き続けなければならないと言いました。私たちは、これから山を越えなければなりませんでした。
歩けば歩くほど、カバンが重くなるような気がしました。こっそりカバンの中身を捨てて軽くしたいと思ったけれど、嘘をついたり、ズルをしたりするのは良くないことだとお母さんから言われていたから、我慢しました。
本当に大変でした。安全な場所を目指して、何時間も歩き続けました。




険しい道のりでした。4日間もの間、暗闇の中を歩き、雨の中をボートで移動し、歩いて山を越えたのです。
ついに、安全な場所にたどり着きました。その一週間後、無事にお父さんに会うことができ、家族みんなで再会を喜びました。




(中表紙と奥付)


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(以下、SVAからの報告書より抜粋)
今回の絵本では「誠実さ」をテーマにしたおはなしにすることで、子どもたちに誠実であることの大切さを伝えることで一致しました。
その後、キャンプ内組織の一人であるノー・セイ氏が、テーマをもとに4月までにおはなしを作成しました。
彼女は、ミャンマーで続く紛争と実話をもとに、安全を求めて逃げ惑う人々の苦しみを反映させておはなしをつくりました。
「誠実さ」とともに、子どもたちに現実を伝えたいと考えたためです。
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エルセラーン1%クラブへのご寄付はこの図書活動の支援金として活用されています。


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